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介護コラム
分かりやすい介護記録の書き方とは?基本や例文などを紹介
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利用者(入居者)への日々のケアに加え、事業所ごとの委員会活動、イベントの企画や実施など現場で働くスタッフはたくさんの仕事をこなしているのではないでしょうか。
その中で「負担」と感じがちな業務の1つに「介護記録」があります。忙しさに追われ、後回しにしてしまいがちな介護記録ですが、これはサービス提供者側にとっても、とても大切なものです。
今回は介護記録の重要性を再確認しながら、書き方のポイントについて解説します。例文も用いて解説するので、参考にしてください。
分かりやすい介護記録を書く目的とは?
介護記録は、サービス提供者側が利用者に対し実施したケアの内容や、そのときの利用者の様子などを文章として残しておくものです。また入居施設の場合、利用者への面会や、病院受診の内容など、記録の内容は多岐にわたります。
記録に定められた様式はないため、それぞれ事業所ごとに内容や項目を取り決め記載しています。記録方法も、手書きだったり介護ソフトを活用したりとさまざまです。
次の項目で、介護記録の意味や目的を解説します。
職員間の情報共有
介護の現場では、基本的に1人の利用者に対し、複数のスタッフが関わります。また、関わるスタッフも介護だけでなく、職種もさまざまです。
関わるスタッフが違う度にケアの方法や内容が異なると、提供する側だけなくケアを受ける利用者側も混乱してしまいます。特に認知症を患っている利用者であれば、対応方法が違うことで、不穏な様子が見られたり、混乱によって普段は見られない言動を招く可能性もあります。
記録を通して、利用者の状態・情報を正しく共有することで、余計な混乱や誤解を防ぎ、統一したケアを提供することにつながります。
今後のサービス提供の指標を示す
現場で行うケアは、介護支援専門員が作成したケアプランに基づいて実施されます。
介護記録には、ケアプランの支援内容に沿ったケアを提供した「利用者の反応・変化」や「目標達成ができるかどうか」などを記載する必要があります。また「ケアプランにそったサービスが提供されているかどうか」も記載しなければいけません。
そして「ケアプランに沿ったサービスを提供」し、「見えてきた新たな生活の課題」について記録することが次のケアプランを立案するための指標となり、新たな生活の目標へとつながります。
利用者や家族とのコミュニケーションを深める
介護記録は、利用者本人や家族から開示を求められた際、提示する必要があります。
実際どのように過ごし活動しているのかなど、家族にとっては気になったり、時には心配になったりするものです。介護の記録にケア時の様子や、状況をしっかりと記録しておくことで、家族からの質問にもきちんと答えられます。
誰が質問を受けても家族に正しい情報を伝えられること、円滑なコミュニケーションは信頼関係を構築することにもつながるでしょう。
介護の質を向上させる
利用者のケアには、介護福祉士だけでなく、看護師や栄養士、理学療法士等のリハビリ専門職など、多くの職種が関わります。
記録には、それぞれの専門分野から、利用者のケアに生かすことのできる情報がたくさん盛り込まれているはずです。その情報を、多職種間で共有することで、ケアの質の向上につながります。
万が一のときの証拠として残しておく
ケアを提供していく中で、時には利用者や家族とトラブルになってしまうこともあるでしょう。その際に、いくら適切なケアを提供したり、正しい対応を行っていたとしても、それを証明するものが必要となります。
介護記録は、自分たちが提供したケアの「証明書」となるものです。記録がなかった場合、訴訟問題や行政処分などにつながる可能性もあります。
そういった万が一の場合でも、記録を残しておくことで提供したケアの証明、根拠となり自分の身を守ることにつながります。
分かりやすい介護記録の基本の書き方
介護記録がなぜ必要か、その目的について解説してきました。ここからは、介護記録を分かりやすく書くためのポイントについて解説します。
それぞれ確認し、自分の記録に足りない点を取り入れてみましょう。
5W1Hで文章を書く
「5W1H」は、介護記録だけにかかわらず、多くのビジネスシーンなどでも活用されている記載方法です。記録を書く上で基本となる「いつ、どこで、誰が、何を、何のために、どのように」をはっきり記すことが重要となります。
この中の1つでも欠けていると、記録を読んだ人に正確に情報が伝わらず、情報のズレや間違いが生じてしまう可能性があります。結果として利用者の不利益につながりかねないため、注意しましょう。
文末を「だ・である」にする
介護記録は、介護保険法に基づいた公的な文書に当たります。一般的に、公式の文章は「です・ます」調の敬体で記載するよりも、「だ・である」調の常体で記載することが望ましいと考られます。
常体で記載する際は、現在形と過去形を分けて書く必要があります。特に介護記録では「〜した。」など、出来事や実施したケアについて過去形で記載することが多いので、現在進行形の場合は記載方法に注意が必要です。
簡潔に分かりやすくまとめる
記録は、必要な情報を具体的に、簡潔に記載することが求められます。長々と長文で書かれていると、読む側も必要な情報を抜き出すことに時間がかかってしまいます。
簡潔にまとめるポイントとして、1つの文に書く内容はできる限り1つに絞ることです(一文一義)。「〜ので」や「〜おり」の接続語を使うと、どこまでも文章が続いてしまうため注意が必要です。
客観的な事実を記録する
介護記録は、利用者の状態、発言、行動などの客観的な事実をそのまま記録することが求められます。ケアする側の主観的な意見や感想、思い、憶測は可能な限り避けて記載してください。
しかし、専門的知見や経験から推測される利用者の変化や予後予測などの考えを記載することも必要なときもあります。その場合は、しっかりと根拠も示しましょう。
専門用語や略語は使わない
介護記録は、介護部門のスタッフだけでなく医師や看護師などの医療部門、理学療法士や作業療法士などのリハビリ部門などさまざまな職種が閲覧します。また利用者本人、家族も閲覧することが可能です。
介護のことを知らない一般の方が読んでも理解できるよう、略語や専門用語は避けて、誰が読んでも理解できるようにしましょう。
介護記録の例文
ここからは、介護記録の例文を場面ごとに別に分けて紹介します。前述で述べた基本の書き方、ポイントを意識しながら、今後の介護記録を書く際の参考にしてみてください。
食事場面での介護記録の例文と注意点
食事の場面では食事摂取量や水分摂取量など、具体的な数値を記録することが重要です。
また、数値化されたデータに加え、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)といった食事に必要な動作、機能の観察や食べる速度、姿勢、表情や様子なども記載しますす。日々の様子を観察し、違いが見られた際はその点を具体的に記載することで、利用者の変化にいち早く気づくことにつながるでしょう。
ただ単に「全量摂取」などと記載することは避けてください。
悪い例
【例文】
昼食は5割程度摂取。水分は全量摂取されていた。食事量が以前に比べ、減っている気がするが、大きく変わった様子は見られず、特変なく経過されている。
「今日の食事の内容はどうですか?」と聞くと「ご飯とおかずが少し固く感じる」と返答。
良い例と補足すべき部分
【例文】
12:00 昼食を提供。食事は主食が5割・副食5割食べられていた。食事とともに提供したお茶は全て飲まれている。先週〇日から見ると食事量が低下傾向。
本人へ「今日のお食事の内容はいかかですか?」と尋ねると「ご飯とおかずが少し固く感じる」と返答されていた。食事形態に変更はないため、咀嚼力の低下、もしくは義歯の不具合などから、食事量の低下につながっているとも考えられるので、言語聴覚士及び看護師とも情報共有し経過観察とした。
【補足すべき部分】
「全量摂取」など抽象的な表現は避け、具体的な数値で記載しましょう。食事量の低下がいつから始まり、その要因にどのような可能性があるのか、専門的知見からの意見も記載しつつ、多職種との連携についても取り入れてください。
排せつ場面での介護記録の例文
排せつは頻度や時間帯、排せつ物の形状や色、量などを意識して記載するようにします。
頻度や時間帯は、生活リズムや排せつパターンを把握するために有効な情報です。また排せつ物の変化は健康状態に変化が訪れている兆しにもなるので、早期発見・早期対応につながります。
さらに、トイレでの立ち上がりなどの動作についても記載することで、排せつ動作が維持できているかどうかも確認できます。
悪い例
【例文】
ナースコールがあり訪問。「トイレに連れていってください」と希望。トイレ介助実施。すでに紙パンツに排尿あり、汚染されている。トイレに座ってもらい、紙パンツとズボン類を交換する。
ナースコールあり排せつ後のケア実施。便器内に排便あり。「さっぱりしました。ありがとう」と話し、再び居室に戻ってベッドに横になられている。
良い例と補足すべき部分
【例文】
13:00 ナースコールあり訪問。「トイレに連れていってください」と希望されたため、トイレへ誘導。手すりにつかまり立ち上がる。立ち上がり動作、立位保持は安定されていた。ズボンを下すと、紙パンツにすでに排尿されていたので、トイレに座っていただきパンツとズボンを交換。「終わったらボタンを押して教えてください」と声掛けし、退室。
ナースコールで呼び出し、排せつ後のケアを実施。「さっぱりしました。ありがとう」と話されている。排せつ後、居室で休まれることを希望されたため、ベッドに横になられている。便器内にバナナ1本分の軟便があり。便の色も茶色であり、普段と変化は見られていない。
【補足すべき部分】
排せつ動作の状況や、便の形状や量について記載されていると、普段の様子が分かりやすく、変化があった際に気づきやすくなるため、記載するようにしましょう。
トラブル場面での介護記録の例文
利用者にケアを提供している中で、転倒や転落、窒息などさまざまな出来事が起こる可能性があります。特に入居施設で起こる転倒事故は、夜間帯など人員が少ないときに発生します。
特に治療が必要となった事故(転倒による骨折など)は、各自治体に報告する義務もあるので、よりそのときの時間帯や状況、様子などを客観的に記載することが求められます。
悪い例
【例文】
居室から物音がしたため訪問。床に座り込んでいる。「どうしました?」と尋ねると「ベッドから車椅子に移ろうとしたら座り損ねてしまった」と返答。
床から立ち上がりの介助をし、車椅子へ座ってもらう。痛みの程度を確認すると「大丈夫」と返答。トイレに行きたいと希望されたので、誘導しその後も特変なく過ごしている。
良い例と補足すべき部分
【例文】
21:00 居室から「ドン」と物音がしたため、訪問。ベッド脇に長座位の姿勢で座り込んでいる。「どうしましたか?」と尋ねると「ベッドから車椅子に移ろうとしたら座り損ねてしまった。」と話されている。看護師に状態確認を依頼。身体状況に異常がないと看護師の判断を受ける。
車椅子へ移ろうとした理由を確認し、トイレに行きたいと思ったとのことで、トイレ誘導介助を行う。その際、本人の許可を得て全身状態を確認。外傷がないことを確認している。
【補足すべき部分】
転倒を発見した際の本人の姿勢とその場所、場面を詳しく記入することで、他のスタッフが読んでもイメージしやすくなります。また、必要に応じて看護師など医療職の協力、判断を仰ぐことで、自己判断で対応していないことも証明できるでしょう。
転倒、転落などは時間の経過とともに皮下出血などが出現するので、直後の状態を記入することで、時系列で経過を確認しやすくなります。
介護記録を分かりやすく効率的に書くポイント
介護記録は、具体的に書こうとすると文章が長くなったり、逆に簡潔にまとめようとすると情報が不足したりして、難しい業務の1つです。次に紹介するポイントを押さえれば、より効率的に分かりやすい文章を書けるようになるでしょう。
常にメモ帳を持っておく
1日の終わりにまとめて記録を書くと、出来事や利用者の言動など思い出すことが難しく、それにばかり時間を割いてしまうことになります。また、うろ覚えであると記録の正確性にも欠けるでしょう。
記録が必要な出来事、利用者の言動があったときには、すぐにメモをとることができるように、メモ帳は常に携帯してください。
テンプレートを作っておく
1日の生活の中で、必ず行う食事や排せつ、入浴などのケアの際に、よく使用される文章を定型文として残すことで、都度文章で入力する手間が省け、効率よく記録できます。また、職員ごとの表現の違いや、言葉遣いなども統一でき、不適切な表現もさけることにつながります。
ただし、定型文だけに頼ると利用者の様子や変化を書き漏らしてしまうため、注意が必要です。
介護記録に使える言葉や表現をインプットしておく
利用者の外見の様子を表す言葉、気分を表す言葉、表現が難しい言葉の言い換えなど、記録に生かすことができるワードをストックしておくことで、考えながら文章を作成するよりも効率が上がります。
1人ひとり、記録の際の書き方や表現は違うので、他スタッフや先輩スタッフなど、他者の記録を参考にしてもよいでしょう。
まとめ
今回は、例文を用いながら介護記録の書き方について紹介しました。介護記録は手間に感じることが多い業務の1つですが、ケアを提供するスタッフにとっては必要不可欠なもので、質の高い介護を行うのに重要な役割を担っています。
紹介したポイントを押さえながら、分かりやすく効率よく介護記録を作成し、よりよい介護を提供できるよう努めましょう。