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介護コラム
LIFE(科学的介護情報システム)とは?分かりやすく解説
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介護業界には、高齢者の増加や人員不足、ケアの質のバラつきなど、さまざまな課題が挙げられています。最近では、2026年度に必要な介護職員が全国で約25万人不足するといったニュースも公表されていました。
このような介護の現場が抱えるさまざまな課題を解決するための手段の1つとして、2021年度の介護報酬改定でLIFE(科学的介護情報システム)が導入されました。この記事では、LIFEについて解説していきます。
目次
LIFE(科学的介護情報システム)について分かりやすく解説
LIFEとは、全国の介護施設や事業所で記録されている利用者の認知症・栄養・嚥下・口腔などの心身状態や、プランやケアの内容を収集・分析し、結果を事業所へフィードバックするシステムです。
厚生労働省では、以下の点をシステム導入のメリットとして挙げています。
- LIFEに情報提供を行い、フィードバックされたデータを活用することで、利用者に関わる職員が共通の目標に向かって取り組みやすくなること
- 評価が数値という可視化された情報でフィードバックされるため可視化しやすく、計画や行ったケアの内容を見直すPDCAサイクルがスムーズにできること
参考:厚生労働省「科学的介護情報システム (LIFE) スタートガイド」
科学的介護とは?
科学的介護とは、エビデンス(根拠)に基づく介護という意味です。「医療介護」という言葉通り、隣り合わせとなる医療分野では、長年このエビデンスに基づいた医療を提供してきました。
医療現場に置けるエビデンスとは長年の研究・文献・治療の結果などを指します。医療を提供する側の感覚、判断で治療が提供されてしまうと、誤った治療を施したり、個人の判断で命を危険にさらすことにつながってしまいます。そのような出来事を防ぐために、根拠に基づいて医療は提供されているのです。
医療現場と同様に、介護の現場でも利用者の心身の状態や、ケアの内容などのデータを収集しエビデンスのある介護を行うことで、質の高いケアの提供や自立支援、重度化予防につながると考えられています。
LIFE(科学的介護情報システム)を導入する目的
LIFEを導入する目的として、ケアの質の向上を図ることが挙げられます。そのために活用される手法が「PDCAサイクル」です。
PDCAサイクルとは、ケアを実施する上でプランを作成し(P)、プランに沿った支援を実施(D)、そして実施内容をモニタリングし(C)、見直しをし(A)、またプラン作成に戻るサイクルのことを指します。
LIFEでは、見直しを行う(A)際にフィードバックを受けることで、根拠のあるデータをもとに次の計画立案を行うことができます。また、根拠のあるデータは介護職員の意識や利用者の捉え方のずれを減らすことにもなり、根拠に基づいた計画を実施することで、一人ひとりに合った個別ケアを提供することや、自立支援の促進にもつながるでしょう。
LIFE(科学的介護情報システム)を導入するメリット
LIFEには、全国の介護事業所から利用者に関するさまざまな情報が蓄積され、分析されています。LIFEを活用することで、事業所にどのようなメリットがあるのか解説します。
科学的根拠に基づいた介護ができる
従来の介護現場では、利用者の状態を数値化して客観的に評価することが難しいとされてきました。利用者の表情や態度の変化、反応の変化など、感覚的なものに頼ることが多く、その判断もケアを提供するスタッフの経験や知識・技術によって差が生じていて、長年の課題とされてきた経緯があります。
この経験の浅い新人職員とベテラン職員、介護を提供する職員の基礎資格など、さまざまな要因によって生じる「ケア格差」を解決することが、導入された理由の1つです。根拠に基づいたケアを実践することは、介護する側の経験や知識、技術に左右されることなく、一定の水準を保った質のいいケアを提供できます。
加算を取得できる
システムの導入に伴い、令和3年度の報酬改定ではLIFE関連の加算の創設・見直しが実施されました。算定要件にLIFEにデータを提供し、フィードバックされた内容を活用することが明記されています。
LIFEを導入・活用することで、それぞれの項目の上位加算を算定できることになります。エビデンスに基づいた介護を提供し、職員のケアの質の向上や、利用者へ質の高いケアを提供できることに加え、事業所の収益増加や安定の効果も見込めることは大きなメリットの1つでしょう。
LIFE(科学的介護情報システム)を導入するデメリット
LIFEを導入する際のデメリットとして考えられるものとして、データ入力が挙げられます。LIFE関連の加算を算定するためには、利用者の基本情報・ADL(日常生活動作)の状態・認知症の状況など、さまざまなデータを入力しなくてはなりません。今までになかった作業が増えることは、LIFEの導入にかかわらず手間や負担と感じる職員も多いと考えられます。
さらに、分析されフィードバックを受けたデータの活用方法も理解できないと、結果としてデータ入力の手間ばかり生じることになり、手間と感じてしまうことにつながります。
他にもLIFEの導入にはICT環境を整える必要があり、事業所側には体制や環境を整えるための金銭的負担が増加することなども、デメリットでしょう。
LIFEの導入状況
国の統計によると、全介護事業所のうち、LIFE関連加算の算定率が多いのが介護保険老人施設で約8割、次に介護老人福祉施設が約7割となっています。通所系事業所では、通所リハビリテーションで5割強、通所介護は5割弱の算定で、入所系施設に比べて算定率は低いです。
一方で、小規模多機能型居宅介護などの事業所では算定率が低く、サービス類型によって導入状況に差が生じています。
全国老人福祉施設協議会のアンケート結果でも、データの入力の手間や、LIFEへの理解不足、ICT機器導入や金銭的負担が導入に関する課題として挙げられています。大規模な施設に比べ、小規模な施設は人員や運営に関する課題がより顕著に出てしまうことから、このような導入状況となっていると考えられます。
参考:厚生労働省「社会保障審議会 介護給付費分科会(第222回)資料5」
参考:全国老人福祉施設協議会「令和4年度 LIFE導入状況調査」
LIFEの運用方法
LIFEを利用するには、インターネット上で新規の利用申請手続きを行う必要があります。また、令和6年8月からは登録方法とログイン方法が一部変更となりました。方法や手順を確認し、登録漏れがないよう注意しましょう。
参照:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定を踏まえた科学的介護情報システム(LIFE)の対応について」
ここからは、運用の流れと方法について解説します。
LIFEへ介護事業者データを送る
LIFEへ提出するデータは、利用者の基本情報や、プランとその内容、評価や認知症の状況・口腔・栄養状態などさまざまで、算定する加算ごとに送るデータが定められています。算定する加算同士で重複する内容もあるため、必要な情報をあらかじめ確認しておくことで、入力する手間や負担の軽減につながるでしょう。
また、加算ごとに、システムへのデータの提出頻度も異なります。科学的介護推進体制加算・個別機能訓練加算ともに3カ月ごとにデータを送信する必要があるため、送信忘れがないよう注意してください。
データの提出期限は毎月10日までで、締め切りを過ぎると加算算定ができなくなる恐れがあります。
LIFEへの介護事業者データの提出方法
LIFEへのデータの提出方法には2種類の方法があります。
1つ目が、LIFEに直接データを登録する方法です。この入力方法は、介護ソフトの使用にかかわらず、インターネットがあればどの介護事業所でも入力できるのがメリットです。
2つ目は、介護ソフトなどを使用して作成したCSVファイルを取り込む方法です。事業所で使用している介護ソフトがCSVファイル出力に対応していなければなりませんが、何度もデータの作成や入力をする手間が省け、業務負担の軽減にもつながります。
記載項目には、それぞれの加算ごとに必須項目と任意項目があるので、抜け漏れがないように注意しましょう。
LIFEから送られてくるフィードバックの活用方法
LIFEには、フィードバックされたデータを活用して、PDCAサイクルを推進する役割もあります。
自らの事業所が提出したデータを全国の事業所データと照らし合わせて確認でき、自分たちの事業所はどの部分が優れていて、どの部分が不足しているのか知ることができます。また、利用者ごとのデータでは、過去のデータと比較することが可能です。その結果から、今後の予後予測へとつなげ、介護予防や自立支援など、質の高いケアを提供するためのPCAサイクルへとつなげていくことが重要です。
フィードバックされた内容を活用することで、事業所に勤務する職員一人ひとりのケアに対する意識や手法を、根拠に基づいて統一でき、結果としてケアの質の向上へとつながっていくと考えられます。
参考:厚生労働省「LIFE操作マニュアル・よくある質問」
LIFE関連加算
LIFEの導入に伴い、新たに新設された加算がいくつかあります。主にLIFEの活用部分の算定要件を紹介します。ポイントを押さえて抜け漏れがないよう注意しましょう。
算定要件の詳細、および加算様式は下記を参照してください。
参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
それぞれの加算様式は、下記を参照してください。
様式:厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)について」
※「6 LIFE関連加算の様式」
個別機能訓練加算 (Ⅱ)
利用者の身体機能維持、自立支援や介護予防に向けて、個別のプログラムを作成・実施することで算定できる加算。
- 単位数:20単位/月
- 個別機能訓練加算(Ⅰ)イ:56単位/日あるいは、個別機能加算(Ⅰ)ロ:76単位/日を算定している利用者が対象で個別機能訓練加算(Ⅰ)に上乗せして算定可能
【LIFEの活用】
- 個別機能訓練計画の内容などをLIFEに提出し、フィードバックの内容を活用し利用者の状態に応じて計画の立案や、実施、評価や見直しを行うこと(PCDAサイクルの実施)
ADL維持等加算(Ⅰ)(Ⅱ)
利用者の自立支援や介護の重度化予防に向けての取り組みを行うことで算定できる加算。
- 単位数:ADL維持等加算(Ⅰ)30単位/月
ADL維持等加算(Ⅱ)60単位/月
【LIFEの活用】
- 利用者全員について、利用開始月と該当月の翌月から起算して6カ月目においてBarthel Index(バーセルインデックス)を適切に評価できる者がADL値を測定し、LIFEへデータを提出する
栄養アセスメント加算
利用者の栄養状態を管理栄養師や介護福祉士など多職種が連携し把握することで算定できる加算。
- 単位数:50単位/月
【LIFEの活用】
- 利用者ごとの栄養状態などの情報をLIFEに提出。フィードバックを受けて、栄養状態改善のための計画立案や、実施、評価や見直しを行うこと(PCDAサイクルの実施)
口腔機能向上加算(Ⅱ)
利用者の口腔内の状態を把握し、適切な管理により口腔機能の低下予防や維持を図ることで算定できる加算。
- 単位数:160単位/回
- 口腔機能向上加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の同時算定は不可
【LIFEの活用】
- 口腔機能改善管理指導計画などの情報をLIFEへ提出し、フィードバックを活用し口腔衛生管理・機能向上のための計画立案や実施、評価や見直しを行うこと(PCDAサイクルの実施)
科学的介護推進体制加算
LIFEから受けたフィードバックの内容を、ケアの質の向上や計画立案や、実施、評価などPCDAサイクルの運用に生かすことで算定できる加算。
【通所・居宅系など】
- 単位数:科学的介護推進体制加算 40単位/月
【LIFEの活用】
- 利用者ごとの基本情報、口腔機能や栄養状態、認知症の状態などの情報をLIFEに提出
- フィードバックを受けて、計画立案・実施・評価・見直しなどPCDAサイクルの運用を推進すること
【施設系】
- 単位数:科学的介護推進体制加算(Ⅰ)40単位/月
科学的介護推進体制加算(Ⅱ)60単位/月
※介護老人福祉施設(地域密着型も含む)の科学的介護推進体制加算(Ⅱ)は50単位/月
【LIFEの活用】
- 利用者ごとの基本情報、口腔機能や栄養状態、認知症の状態などの情報をLIFEに提出
- フィードバックを受けて、計画立案、実施、評価や見直しなどPCDAサイクルの運用を推進すること
褥瘡マネジメント加算(Ⅰ)(Ⅱ)
褥瘡発症予防のために対策を行い、また発生したものに対して状態改善の対応を行うことで算定できる加算。
- 単位数:褥瘡マネジメント加算(Ⅰ)3単位/月
褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)13単位/月 - 加算(Ⅱ)は、施設入所時または利用開始時に褥瘡が発生するリスクがあるとされた利用者が、褥瘡の発生がないことを算定要件としている
- 褥瘡マネジメント加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は同時算定不可
【LIFEの活用】
- 施設入所時または利用開始時に評価し、その後少なくとも3カ月に1回評価するとともに、その評価結果などの情報をLIFEに提出。フィードバックを受けた内容を褥瘡管理の実施に活用すること
排せつ支援促進加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)
入居者に排せつケアを実施し、状態の改善や定期的な評価を行い、ケアの質の向上を図ることで算定できる加算。
- 単位数:排せつ支援加算(Ⅰ)10単位/月
排せつ支援加算(Ⅱ)15単位/月
排せつ支援加算(Ⅲ)20単位/月 - 排せつ支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)の同時算定は不可
【LIFEの活用】
- 排せつに介護を要する入居者ごとに、要介護状態の軽減の見込みについて、医師または医師と連携した看護師が施設入所時などに評価するとともに、少なくとも3カ月に1度評価を行いLIFEへ提出。フィードバックを受けた内容を、排せつケアに活用する
自立支援促進加算
自立支援や重度化予防に向けて、医師のアセスメントとその評価をもとに計画を作成し、その内容に沿ってリハビリテーションやケアに取り組むことで算定できる加算。
- 単位数:300単位/月(介護老人保健施設)
- 単位数:280単位/月(介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設・介護医療院)
【LIFEの活用】
- 医師が行った自立支援の評価結果をLIFEに提出し、フィードバックされた内容を自立支援促進に向けて活用する
栄養マネジメント強化加算
入居者の栄養状態の改善や、維持のためにカンファレンスの開催、ミールラウンドの実施など栄養ケアを実施することで算定できる加算。
- 単位数:11単位/日
【LIFEの活用】
- 入所者ごとの栄養状態などの情報をLIFEに提出し、フィードバックされた内容を継続的な栄養管理のために活用すること
口腔衛生管理加算(Ⅰ)(Ⅱ)
入所系サービスにおいて、入居者の、口腔衛生の管理体制を整備し、入所者ごとの状態に応じた口腔衛生の管理を行うことで算定できる加算。
- 単位数:口腔衛生管理加算(Ⅰ)90単位/月
口腔衛生管理加算(Ⅱ)110単位/月(LIFE)
【LIFEの活用】
- 口腔衛生などの管理に係る情報をLIFEに提出し、フィードバックされた内容を口腔衛生などの適切かつ有効な管理と実施のために活用すること
まとめ
LIFEを導入し活用することは負担となる部分もありますが、介護職員のケアの水準を一定に保ちつつ、ケアの質の向上につながるでしょう。また、活用に伴う加算も算定できることで、事業所の収益増加・安定も図れます。
導入に伴う不安や疑問を解消し、導入に向けて検討してみてください。